滅菌と洗浄:再生処理

再生処理の現場で働くみんなを応援します。

仕分け・洗浄・消毒:再生処理②

洗浄は再生処理の中でもっとも重要な部分です。汚れをどれだけ落とせるかが、その後の滅菌の質に大きく影響します。洗浄効果に影響する重要なポイントは「洗剤」と「水」です。

洗浄には3つの前提条件があります。

  1. 感染防止対策:個人防護具の正しい使用
  2. 洗浄物の特性:添付文書で注意点を確認する
  3. 汚れの特性:汚れの種類と時間や熱・薬品などによる変化を知る

洗うという行為をしただけでは、きちんと汚れが落ちてキレイになっている保証はありません。「洗えている=汚れが残っていない」ことを確認(洗浄評価)して、証拠を残すことが必要です。

仕分け

回収・返却された器具は、洗浄や滅菌の方法ごとに仕分け(区別)します。

  • 水で洗えるもの、濡らしてはいけないもの

  • 高温で滅菌できるもの、低温滅菌でなければダメなもの

  • 消毒/洗浄のみでよいもの、滅菌するもの

  • 取扱いに注意する鋭利な器具

  • 洗浄方法ごとに区別する(WD/超音波洗浄器/浸漬洗浄/手洗いのみ)

  • 壊れやすいデリケートな器具、マイクロ器具、光学器具

  • 内腔のある器具

仕分けの目的は、洗浄や組立の工程がスムーズに行えることと、器具を破損せずに正しく取り扱い、作業者がケガをしないようにすることです。

仕分けのルール
  1. 汚染器具と洗浄後や滅菌後の器具が混ざらないよう動線を一方向に統一する
  2. 移送中の落下や破損を防ぐため声を掛け合う
  3. 入れ物を決めワゴンなどで運搬する(手で持ち運ばない)
  4. 仕分けるまでの置き場所(待機場所)を決める
  5. 仕分ける作業スペースを決める
仕分けの方法
  • ワイヤーバスケットなどにカラークリップなどで印を付けて区別する
  • 単品器具、セット器具、業者貸し出し器具、医師の持ち込み器具を分ける
  • 払い出す部署ごとに印を付けてまとめる

洗浄

洗浄には、「用手(ようしゅ)洗浄」と「器械洗浄」の2種類があります。可能な限り機械洗浄を第一選択とします。

洗剤の洗浄力がとても重要です。洗う器具にダメージを与えず、確実に汚れを落とせる洗剤を選びましょう。適切な濃度と温度を守ることで、洗剤の洗浄力を最大限に引き出すことができます。

洗浄器がない場合や、洗浄器に入れて洗えない器具は、用手洗浄のみで洗うことになります。洗浄器で洗う前に用手洗浄を追加すること(前洗浄)もあります。

用手洗浄

人が手で洗う方法と浸け置き洗い(浸漬洗浄)、拭き取り洗浄の3つがあります。

人が行う場合は洗い方に個人差が出やすく、洗浄の結果がいつも均一になるとは限りません。体調や気分によっても結果が左右されるので、洗浄器があれば機械で洗うことを優先します。作業者の安全を守るためにも、用手洗浄は必要最小限にとどめましょう。

洗浄する時は、できる限り分解します。分解しなければ、重なり合った奥の方やネジの隙間などに汚れが残ってしまいます。洗い方は、しっかりとルール(手順)を決めて守ることが大切です。

用手洗浄だけで洗浄が終わる場合と、機械洗浄の前洗浄として組み合わせる場合があります。

前洗浄

機械洗浄の前に行う洗浄のことをいいます。分解、用手洗浄、浸漬洗浄などです。

用手洗浄:洗浄液の中に器具を完全に沈めて洗う

ブラシ、不織布、スポンジなどの物理的な力と洗剤の化学的な力で器具を洗います。

洗う器具の大きさや形、内腔に合った種類とサイズを選んで使います。使ったブラシ等は、すすいで乾燥させ保管します。傷んできたら新しい物と交換します。定期的に交換するか、交換のタイミングを決めておきます。劣化したり変形したブラシでは、器具の汚れを落とすことはできません。

浸漬(しんせき)洗浄

洗浄液の中に器具を完全に沈め、洗剤の化学的な力で汚れを落とします。時間が経って乾いてしまった汚れを落とすために有効な洗浄です。洗剤の洗浄力が最大になるよう、洗浄液の濃度や温度が重要となります。

洗浄液の温度を一定に保つ「恒温槽」を使うと、温度管理が簡単にできます。

拭き取り(清拭)洗浄

ガーゼやワイプ(不織布)、マイクロファイバークロスなどに洗浄液を染み込ませて汚れを拭き取ります。洗浄液が残らないように、すすぎの代りに水拭きを数回行います。

機械洗浄

器械にまかせて自動で洗います。

ウォッシャーディスインフェクター(WD)

器械にセットし洗浄・すすぎ・乾燥まで自動で行います。すすぎの温度を高くすると熱水消毒ができます。洗剤の化学的な力と強い水流の物理的な力の両方で汚れを落とします。

バスケットに器具を並べてセットし、上下のプロペラからジェット水流が噴射されます。器具の表面しか洗えません。内腔のある器具は、専用の接続ポートにセットしなければなりません。

超音波洗浄器

洗剤の化学的な力と超音波のエネルギー(キャビテーション作用)を利用して器具の表面から汚れをはがします。洗浄は自動ですが洗った器具を「すすぎ槽」に入れ替えて、自動ですすぐ二層式の洗浄器と、すすぎは人が行う卓上型の洗浄器があります。

細長い内腔のあるラパロ鉗子などを洗うために、内側を洗う潅流(かんりゅう)ポート付きの真空超音波洗浄器(全自動)もあります。

減圧沸騰洗浄器

洗剤を使い減圧(真空)と復圧(大気圧に戻す)を繰り返す減圧沸騰(げんあつふっとう)の作用で、すみずみまで強力に汚れを落とす洗浄器です。洗浄からすすぎまで行いますが、乾燥機能が付いた機種もあります。

器具の内部を洗うための面倒な接続が不要で、様々な形や材質の器具を一緒に洗える便利な洗浄器です。

洗浄のポイント4つ

洗う器具ごとに、器具の特性と洗い方を細かく決めて「手順」を作ります。

  1. 汚れの性質を知る
  2. 洗う器具の特性を知る
  3. どの道具と洗剤を使ってどのように洗うかを決める
  4. 洗った後のチェック

未経験の新人も含めて、スタッフ全員が手順通りに洗うことが大切です。そのためには「手順」を文書にして、いつでも誰でも確認できることが必要です。

もし「手順」通りに洗ったのに汚れが残った時には、「手順」そのものをはじめから見直しましょう。

洗っただけでは「本当に洗えているのか?」「汚れが残っていないか?」はわかりません。

少なくとも、洗浄後はすべての器具を必ず目で見て洗い残しをチェックします。これを目視確認といいます。

汚れの性質

医療に使われた器具の汚れは、生体由来(血液・体液など)のものだけでなく、処置に使われた薬剤なども含まれています。それらの汚れの特徴を理解して素早く効果的に取り除くと、器具の腐食や劣化を防いで性能を維持することができます。

生体由来の汚れ

  • 血液、体液:水に溶けるが乾燥すると固まってこびりつく(固着:こちゃく)
  • 脂肪、骨・軟骨、組織(肉など):水に溶けない
  • 上記の汚れが熱や消毒薬などで固まったもの:頑固な汚れ

血液や体液は、乾燥させないことが重要です。脂肪は、高温での洗浄や界面活性剤配合の洗剤が有効です。骨や組織などは、前洗浄で物理的に取り除く必要があります。

熱や薬剤で変性した汚れは、ブラッシングなどでの物理的な除去や超音波洗浄が必要です。

薬剤など

  • ペースト(軟膏など)
  • 接着剤(セメントなど)
  • 染色液
  • 生理食塩水
  • 消毒薬

ペーストやセメント類は、付着後すぐに取り除きましょう。エタノールや専用のリムーバー(除去剤)を使います。染色液も乾燥でこびりつくので、すぐに拭き取りエタノールやリムーバーなを使います。生理食塩水は長時間放置すると金属を腐食させるので、流水などで取り除きます。消毒薬は発泡性(泡立つ性質)があるので、特にWDに入れる前には流水で取り除きます。洗浄液に混ざると、洗剤の酵素を弱めてしまうので、洗う前に流水で取り除きます。

洗浄時の感染防止対策

洗浄の作業では感染のリスクがありますが、個人防護具を正しく使うことで安全が守られます。

  • マスク
  • キャップ(帽子)
  • ゴーグル(フェイスシールド)
  • グローブ(手袋)
  • エプロンやガウン

洗浄に使う水

洗剤を使って洗う時とすすぎで使う水には、種類によって特徴があります。

滅菌水ですすぐこともありますが、高価なので節約しがちです。十分にすすげる量を使わなければ、汚れや洗剤を残さず洗い流せないので注意が必要です。

水道水

水道水は、飲用に適した水です。洗浄やすすぎに使われますが、洗う器具・洗剤・洗浄器に合っているかどうかを、それぞれ確認しましょう。

日本の水道水は一般的に軟水ですが、地域によって差があります。洗浄には適さない硬度の水道水もあるので確認が必要です。

軟化処理水

原則として、水道水を軟化処理して使います。地下水は対象外です。

水道水の硬度を低く調整するので、器具や洗浄器にスケールが付着するのを防ぎます。

スケールは、水道水のカルキ成分が白く固まってこびりつく状態のことです。

水道水に含まれる塩化物イオン(塩素消毒)やケイ酸などは残ったままなので、金属の変色や腐食を軽減することはできません。

脱イオン水

原則として、水道水の硬度成分と不純物(塩化物・ケイ酸)を取り除いた水です。地下水は対象外です。イオン交換水RO水蒸留水などがあります。器具へのスケール付着や変色・腐食を軽減できます。最後のすすぎに使うことが推奨されています。

洗剤

医療器具を洗う時は、必ず医療用の洗剤を使います。家庭の食器洗剤などで洗うことはやめましょう。台所用洗剤は、洗う汚れのターゲットが脂肪の場合が多く、血液や体液などのタンパク汚れが落ちにくいことがあります。㏗値での液性表示がなく、着色料や香料などの人体への安全性も確認されていません。台所用洗剤は「泡が命」なので洗浄器には使えず、用手洗浄でも泡が邪魔になって器具が見えないためとても危険です。

洗剤の種類と特徴

医療用洗剤も台所用洗剤と同じく日本では「雑品」扱いですが、液性と用途、使用条件などが明記されています。用途によって、様々な種類があります。

  • アルカリ洗剤(アルカリ性):生体由来の汚染
  • 酵素配合洗剤(弱アルカリ~中性):生体由来の汚れ
  • 錆除去剤(中性~酸性):錆の除去
  • 熱やけ除去剤(酸性):熱やけの除去
  • 中和/スケール除去剤(酸性):アルカリ洗剤の中和/スケールの除去
  • 血液凝固防止剤(中性~弱アルカリ性):洗浄前の血液の凝固防止

血液凝固防止剤は、単体での洗浄効果はありません。洗浄までの間に血液凝固防止して洗浄効果を上げるためのものです。

アルカリ洗剤は洗浄効果が最も高く、洗浄温度が高いほど洗浄効果が上がります。ステンレス以外の金属への腐食性(変色・劣化)があるので、アルミや真鍮製の器具には使えません。人体や環境への影響もあり機械洗浄のみで使用可能です。用手洗浄には適しません。

酵素配合洗剤は、酵素が最大限の洗浄力を発揮するための条件があります。一般的には40℃~50℃の範囲内で使用します。洗剤の添付文書に従ってください。60℃以上の高温では、酵素が働くなり(失活:しっかつ)洗浄力が低下します。40℃未満に温度が低くなるほど酵素活性が低下して、洗浄力が落ちてしまいます。

洗剤の選び方

基本は、それぞれの器具の添付文書や取扱説明書に指定されている洗剤を使います。やむを得ず違う洗剤を使う時は、器具と汚れに適合していることと、洗浄効果を確認します。

  • 器具と汚れに合っているか
  • 使う水と洗剤が合っているか
  • 洗剤の洗浄力の確認(洗浄評価)

水質によって洗剤の洗浄力が変わるので、必ず確認が必要です。

洗剤の保管・取扱

洗剤には使用期限があるので、確認しましょう。保管は、添付文書に書かれている内容を守ってください。

  • 温度・湿度(高温多湿は避ける)
  • 光(直射日光が当たらない暗所)

保管する環境の影響で洗浄能力が劣化することがあります。液漏れを防ぐために、容器を横倒しにせず必ず立てて収納します。希釈した状態での保管はできません。小分けして容器を移し替えることは、誤使用などの事故に繋がり、使用期限もわからなくなるのでやめましょう。

最終添加剤

洗浄の最後のすすぎで最終添加剤(リンス剤)を使用します。滑りをよくして錆を防ぐ効果(潤滑防錆効果)の流動パラフィンなどと、乾燥促進効果の界面活性剤の2種類があります。いずれも機械洗浄での低温時に発泡しやすいので注意が必要です。器具の材質によっては、劣化・変色などが起こるので使用できません。

洗う前に消毒してはいけない!

汚れた器具を取り扱うことに不安を感じて、洗う前に消毒するという考え方が昔はありました。しかし、これは絶対にやってはいけないことです。

消毒すると、器具の汚れのメインである血液(タンパク質)は固まってこびりついてしまいます。固まってこびりついた汚れを落とすのは、とても大変ですね。

洗う前の消毒は、汚れを落ちにくくする危険な行為です。

消毒

消毒には、WD(ウォッシャーディスインフェクター:洗浄消毒器)の熱水による物理的消毒と、消毒薬を使う化学的消毒の2種類があります。環境消毒などに紫外線照射が活用されていますが、器具の消毒に紫外線は使いません。

熱水消毒

熱水や蒸気を使って消毒する方法です。医療器具の場合はWD(洗浄消毒器)を使った熱水消毒に限られています。熱水に耐えられる器材と人にも環境にも優しい安全で確実な消毒方法です。費用も低く抑えられ、消毒薬を使うスペースも必要ありません。

Y's Square:病院感染、院内感染対策学術情報 |II 滅菌法・消毒法説より引用

国によって基準が違いますが、日本での目安は下表のようになっています。

Y's Square:病院感染、院内感染対策学術情報 |II 滅菌法・消毒法説より引用

ベッドパンは、ベッドの上で使う便器や尿器、ポータブルトイレのバケツのことです。専用の洗浄器ベッドパンウォッシャーが広く使われており、洗浄後に蒸気で自動的に消毒されます。

薬液消毒

消毒薬を使った消毒には、3つの消毒方法があります。

  • 浸漬法:器具全体を完全に沈めて内部に気泡を残さない
  • 清拭法:たっぷり含ませて拭き消毒薬の接触時間を確保する
  • 潅流法:器具の内部に消毒薬を潅流させる

ミルトン:医療関係者向け情報サイト

この他に散布法もありますが、器具の消毒では行いません。

消毒薬の種類

消毒薬の化学的な反応(酸化、凝固、溶解など)によって微生物を殺したり弱らせます。

消毒薬の種類によって、それぞれに消毒効果が有効な微生物と無効な微生物があります。微生物ごとの効果の違いを「抗微生物スペクトル」といいます。

使う消毒薬が、器具の汚れの微生物に効くかどうかを確かめなければなりません。

医療器具が人体のどの部分に触れるかによって、再生処理は3つのレベル(水準)に分けられています。

「スポルディングの分類」が参考にされています。

引用元:スポルディング分類 | ナノソニックス

「クリティカル」は、手術などで使う器具を滅菌します。

「セミクリティカル」は、傷のない粘膜(口の中など)と傷のある皮膚に触れる器具の消毒です。

「ノンクリティカル」は、傷のない健康な皮膚に触れる器具の消毒です。

Y's Square:病院感染、院内感染対策学術情報 |II 滅菌法・消毒法説より引用

消毒薬を使う時の注意

  1. 目的の消毒レベルに応じた消毒薬を選ぶ
  2. 消毒する器具の形や材質に適した消毒薬と消毒方法を選ぶ
  3. 消毒薬を正しく調整する(濃度・温度・PH・希釈水)
  4. 消毒の前に前洗浄をしっかり行う
  5. 消毒薬の毒性に注意する(グローブ、マスク、ゴーグル、換気)
  6. 浸漬法はすすぎをしっかり行う
  7. 消毒薬の保管と廃棄(はいき:捨てる)方法を守る